こないだの電話の内容

 

「あ、もしもし、あのぉ、そろそろ自殺しよーかなぁなんて考えてるもんなんですけど......

 

あ、違いますよ違います。冷やかしとかじゃなくって!

ちょっと誰かと話したくなって......そそ、悩み相談です、それそれ!

いやー最近どうもごたごたしてまして、どうも息苦しいのでちょっと試しに、と思ってまして。

 

具体的に?いや、何がといわれましても......

あ、そうそう音楽!あるじゃないですか『葬式では何流したい~?』なんて言うやつ。

それでちょっと考えてまして......

ま、とりあえずポップスはやなんですよ。

 

あ!ちょっと待ってくださいよ!切らないで!いたずら電話じゃないんです!

 

いいですか?で、ひとつ疑問が出てきたわけなんです、”音”と”詩”ってどっちが強いんでしょうか?

 

”詩”ですか?そうですかねぇ?

だって『洋楽大好き!歌詞?シラネ』なんて人や、『あの協奏曲には憧憬が~』なんて人もいっぱいいませんか?カラオケなんかはひどくって一番と二番を間違って歌ったり......」

 

ツー......ツー......ツー......

 

 

ぱぴぷぺ、ぺぱぷ、ぺぱぷ

プルルルルルルルルルルル

 

「あ!ちょっと!まだ途中だったでしょ!

 

あー、ほんとは、たしかに友達とする話ですよね。

でもいませんよそんなの。みんな揃ってイヤホンしてんだから。浸ってんですねぇ。

 

あーあーあーあーあーあー!聞きたくないですよ説教なんか!悩みを聞くのが仕事でしょ!?

友達のいない、俺のためと思って、ね?お願いしますよ。

 

で、結局のところ、”泣かせるには詩か音か!?”

話変わるんですが、昭和の演歌は愚痴っぽいですよね~『あんたあんた』なんてなぁ。

 

あ、昭和生まれですか?

 

演歌は聴かない?それは、よかった......

そうそう、日本の音楽史、特にフォークと日本語ロックの隔たりですね、あるんですよ。

日本にロックを輸入するにあたって歌詞をどうすんのかって問題。個人的には”はっぴいえんど”ってバンドが解決させたと思ってるんですが、当時は賛否両論だったらしくって。日本語はダサい、英語はかっこいいって、結局コンプレックスから来てるのもあるんでしょうがね。

でも、なんだかんだフォークのが詩的で、日本語ロックはやっぱり愚痴っぽくなって......

 

 

ちょっと聞いてます!?

 

お仕事が大変なのも分かります。

 

でもね!

もっと視野広くしなきゃ話相手にもなれねえでしょうが!

貴方の部屋に、本棚に、何冊あるんですか、百科事典は!?

知りたくなったらWikipediaですか!?ブックマークもせずに!興味も関心も、どこに行っちまったんですか!?

 

いや、まぁ、どっちでもいいんですけどね......

 

言葉で泣かすのは、単純なんですよ......

イコライザ弄んなくったって、ボーカルは、聴こえます。言葉は、届くんです。

けど、それが音になると、これが全然難しくって、必要な音がなってないとね......

心に響く音で、なくなってしまう......

 

そもそもインストなんて、聴く人じゃあなきゃ聴けないですもんね......

 

ふわぁ~

…...

眠くなってきましたね、お互いに…...

いっぱい、喋りましたね。

 

あったかいなぁ......

やっぱさ、有機物…...だよね......

 

じゃ、寝ますね。

 

ありがとうございました。

そっちも、お仕事、頑張って。

 

コーヒーの飲みすぎは、注意ですよ......

胃が荒れるから…...

 

うるさいですよ......さっきから......

 

あー、さいごにちょっと、ちょっといいですか、曲はね、

”Wish you were here”

 

ぼくのなまえも、おしえますよ......

 

『えどしらん』って。ウケるでしょ......

昔の歌手から、貰った名前。愛嬌ある顔のね......」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

読み手へ問う。

「炎」こそ命の根源ではないのか?

マイスリーハルシオンロヒプノールドラール、ベルソムラ......

全て横文字の、これら冷たい錠剤は「炎」を多少なびかせる。

この涼しい風が、あるいは必要なのかもしれないが......

 

無機的な風より、彼はぬくもりのある、炭を選んだ。

何故なのか?

「炎」と「炎」は、なぜ互いに消しあうのか?

 

ーこれにて演説おしまい。

......冬に書くべきだったかな?

再開.2

「これは、彼女からのプレゼントだったんだよ」

「ほー」

「あれは、暑い夏の日のことだった......」

「......」

「アパートの一室で、誕生日を迎えたんだ」

「ふーん」

「その時彼女が、もう疲れたから別れましょうって......」

「ダウト!」

「む」

「つくならもうちょっとマシなウソにしなよ」

「うーん」

「ほら、つぎは?」

「んー...そうだな」

「ゆっくりでいいよ」

「......えっとな」

「おいしー」

「......文芸部の子だったんだ」

「女の子の話ばっかり」

「ほんとだな」

「なんで、そんな見栄ばっかり張るの」

「んーわかった......正直に話す」

「よかろう」

「降参です......」

 

 ――――――――
―――――
――…

 

あれは中学一年の、年の瀬だったか、いわゆる親戚づきあいが面倒な俺は自分の部屋に閉じこもっていた。

お年玉をくれる時以外は部屋からでない、そんな一日の話......

 

「君、どこの子?」

「...室田です」

「ああ!あの頃の!大きくなってまぁ!」

「......」

「少し前会ったのよ、覚えてない?」

「いや、えっと......」

「あ~、あの頃はたしか4歳か5歳だったっけねぇ?分かんないわけだ」

初めて見た顔だった。俺にとって親戚っていうのは、酒やけたジジイと暴れまわるガキばっかだったから、そのひとの女性らしさは異質だった。

「じゃああげるね、お年玉」とぽち袋。

「あんまし入ってないけどごめんね」

 

そう笑うあの人の笑みは、クシャっとしてやわらかかった。

それに、巨乳だったな」

「へぇ~」

「俄然うれしそうじゃねえか」

「おっきいの好きなんだぁ?」

「お前ももっともまれろ」

「うーわセクハラ!」

「続けるぞ」

 

――――――――
―――――
――…

「ね、ちょっとお話ししようよ」と引き留められる

「そんなに近い親族じゃないし、たまにはいいでしょ」

酒臭い、が、それ以上に香水が、いい匂いだった。

ので俺は、

「仕事は何やってんの?」と。

「聞きたい?」

「うん」

「占い師でございます」

「占い?水晶玉のぞく?」

「そう、あれです」

俺は年浅く、占い師なんて職業と話すことなんかそうそうないので興奮してしまった。

そんなわけで俺は......

 

 皿うどんと唐揚げ櫛お待ちで~す!

 

......そう、だからむやみにいろいろ聞いてしまったわけだった。

「占いって、当たるの?」

「儲かるの?」

「壺とか売るんでしょ?」

そのひとは

「当たるっちゃあ、当たるかな」

「儲かるけど、ほんと大変だよ~?」

「壺なんて売るのは、占い師じゃなくて詐欺師だよ」

とまぁ、いろいろ言い負かされたわけで......

 

「大人の対応だね」

「そうだな」

「あーあたしも会ってみたいなその人」

「うん、その人......お前に似てたな」

「あら、ありがとう」

「どういたしまして」

「......なんか照れるんだけど!」

「まぁ聞いてよ」

 

――――――――
―――――
――…

「で」

「はい」

「あたしにも少し話させて」

「あー、はい」

バッグをごそごそまさぐり、

「じゃ~ん」と掲げたそれは、大きなきんちゃく袋。

「君、石ころ好きだったでしょ?」

「え?」

「そうだったんだよ、もう覚えてないか~」

「...はい」

「ほら」と広げるとそこには、まばゆいばかりの宝石の一つ一つが、ポケットに区分けされ居座っている。

「ね、一個出してみましょう」と白い石を取り出す

手に取ってみるとそれが、青い光を発している。何だろう、楕円に、青い縦筋が、浮かんでは逃げて......

「綺麗でしょう?」

「......」

「これはね、ムーンストーン。雲の合間を月光が差す、夜道を照らす御守りなの」

「......」

「三千円でどう?」

なるほど、と思った。ぽち袋をあけると、そこにちょうど三千円が入っているわけだった。

「こうやって壺売ってんの?」 

「人聞きの悪い......」

「......」

「買わないの?」

「じゃあさ」

「はい」

「なにか、占ってみてよ」

「よしきた!」と。

そのひとはカードを広げる。

「今日は大アルカナ、22枚でいいでしょう」

「タロットっていうやつ?」

「そう、とりあえず裏のまま混ぜてください」

丹念に混ぜる。時折裏側を撫でて、細工でもしてないか調べようとすると

「駄目ですよ」

というので、やっぱり素直に混ぜて揃えたわけだ。

「それじゃ、これをもって」と、小石が手渡される。

「それをしっかり握って、ゆっくりと一枚めくりなさい」

おそる、おそる。めくるとそこには

 

Wheel of Fortune

 

「運命の輪。全てが運命的にあなたのもとに訪れる。」

「はぁ」

「あなたにはきっと、素晴らしい幸せがやってくるでしょう。しかし、それにも終わりは必ず来る。極めて周期的なものでしょう。

きっとあなたは、素晴らしい仲間に巡り合うでしょう。しかしそれは永遠のものではありません。幸せはじっくりかみしめなさい。そして、悲しみはじっと耐え忍ぶのです。あなたの車輪は、決して止まらない......」

「......」

「そんなふうに、言ってたな」

「...で、その石が今のネックレス?」

「あ、これ?」

「うん」

「違うよ、これは通販で買ったの」

「は?」

「石もお年玉も、全部持ってかれちった」

「...なーんか、山もオチもない話」

「ほんとだよなぁ」

「あ、次エビチリ食べたい」

「よく食うよなぁ人の金で」

「ほら、取り皿」

「お、ありがとう」

「いえいえ」

 

――――――――
―――――
――…

久しぶりに会った女はやつれていた。化粧のノリも最低だった。

「あ、久しぶり」

「...ご無沙汰です」

「これ、あげるね」

「あの日の...いいんですか?」

「もうあたしには、必要ないの」

「でも、そんな」

「いいのいいの」

「でも、商売道具じゃなかったでしたっけ?」

「...占いはやめたの」

「え」

「夫が株で儲かっちゃってね」

「でも」

 

 

あたしは彼を道具として選んだの。たぶん、それがいけなかったのね。あの人は時運があった。確実に勝つ勝負をした。占いで彼を助けてしまった。どうしても当たってしまうカードで、あたしは偶然性を失ってしまった。必然だらけの人生。毛布から愛情まで手に入れて、あたしはなんだか、虚しくなってしまったの。何もかもが、味気ないような......

 

俺は、何にも満足していないから彼女の気持ちは分からなかった。しかし、運命を操るこの石に恐ろしさを感じたのは確かだった。

 

「この石に、取り殺されてしまうかもしれない...」

 

俺は、日が暮れる前にその石をタンスの裏に放り投げた。

そう、この胸元に光る石は、本当はムーンストーンなんかじゃない。

おれは運命を見たくはない。

足元をすくわれるのが嫌だからだ。

 

 

しかし、帰れば部屋のタンスの裏で、月は明日を勘定している。

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墜落

洪水の中、折れた脚をかばって白地の壁にもたれかかっていると、黄色い長靴が近づいてきた。梅雨のことだった。

 

雀は巣立って間もなく不幸に陥ったわけだったが、それが幸いして、ちいさなちいさな世界を手に入れたのだった。

 

雀は夢にうなされる深く深く、底の見えない青色に墜ちていく夢だ。

雀はその青を知らない。保護された小鳥にとってそれは、もはや縁のない世界だった。

おもちゃ箱が彼の巣で、真白の青空が彼の世界だった。

不器用に跳ねて戸のそばに寄って見る。雨がやんできているようだった。

 

 

悪夢は現実となる。あんなにも優しかった少年は雀を打ちあげる。

青空に墜ちていく、墜ちていく、墜ちていく......

 

瞬間、小鳥を救うべく身を挺し受け止めた一羽の烏。

が、彼の抱擁虚しく、雀は自重で砕け散った。

烏は手厚く、弔ってやった。

 

一瞬の出来事であった。少年と烏、にじんでいく二人の間に風が吹く。

初夏のことだった。

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再開.1

「ごめん、待ったよね?」

「いやいやいま来たとこだよ」

「そう、よかった」

「しかし久しぶりですね」

「ほんと、お久しぶりです」

「おかたいなぁ」

「ほんとだねぇ」

「......ちょっと痩せた?」

「え?そう?」

「いや褒めてないぞ、飯食ってるか?」

「そりゃあ、もう」

「うむ」

「じゃ今日はごちそうになりますね」

「えっ」

「あ、厳しかった?」

「......月末だぞお前」

「分かってるよ、冗談だって」

「分かった分かった、払うよ」

「大丈夫?無理してない?」

「任せなさい」

「ではお言葉に甘えて」

「よし、じゃ行こう」

「どこ?」

「駅前すぐの......ほら!あそこだよ」

「あ、入ったことない所だ」

「俺もない」

「ないんだ」

「予約入れたから」

「飲み放題とか、いつまで学生気分なんだ!」

「時事ネタかよ」

「えーでも、飲み放題かー」

「いいだろ学生気分で」

「んー」

「よし、入るぞ」

 

二名様ですかー

 

「はい」

 

では奥の席にご案内しまーす

 

「あ、掘りごたつだー」

「大概そうだろ」

「いやーでも居酒屋って、初めて来たかも」

「そんなやつ居るかよ」

「居るんですよ」

「あー、でもまぁ、そっか」

「......お、おしぼりじゃん」

「だね」

「......」

「......なに、ニヤニヤして」

「いやさ」

「キモイよ正直」

「......何飲む?」

「先決めていいよ」

「俺は生です」

「じゃーねー...」

「つまみは、唐揚げと枝豆で」

「勝手に決めないでよ」

「ん、すまん」

「じゃーカシスオレンジと、ピザ食べたいんだけど」

「好きにして」

 

はい、おうかがいしまーす

 

「カシスオレンジとミックスピザと後」

「生と、あと鳥唐と枝豆で」

 

はい、カシオレひとつ生ひとつ......

 

――――――――
―――――
――…

 

「遅いな」

「混んでるしね」

「土曜だもんなー」

「しょうがないしょうがない」

「あ、お手拭き」

「ん?」

「つかんないの?」

「もう子供じゃないんですよ」

「そっか」

「あ、来たかも」

 

熱いんでお気を付けください

 

「なんでつまみからなんだよ!」

「ワロタ」

「お通しもまずいし、もうここ来ねーわ」

「悪酔いしないならいいじゃん」

「でもさー......」

「ん?」

「......」

「したかったんだ?」

「そりゃそうだろ」

「全然目、合わせないよね」

「......」

「お酒飲むと、もっとずかずかしてくるのにね」

「かんけーねーだろ」

「......」

「そうだ、そっちでは上手くやってんのか?」

「なにが」

「......長野だったか、友達はできましたか?」

「んー、それなり、だね」

「そうすか」

「もっと聞かないの?」

「生が来てからにします」

「そうですか」

 

コトッ

 

「来たよ、生」

「ほんと最悪だよ!絶対来ねーわ!」

「じゃ、乾杯しましょ」

「おう」

 

「「乾杯!」」

 

「いやー美味いねほんと」

「おいしー」

「これはサッポロだな、常連になるわ」

「おつまみ残ってたらもっと最高だったよね」

「言うな」

「うん、おいし」

「......」

「......」

「......そのネックレスさ」

「ん?」

「どうしたの?そんなのするタイプだっけ?」

「あーこれはね、貰いもんなのよ」

「へぇ!誰から?」

「話すと長くなるぞ」

「どうぞ」

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groovin moment.3

午後およそ七時、吉兆にて。

キンキンに冷えたビール三杯。と、お冷が一杯か。

 

「いやー、今日のセッションは、ちょっとなぁ」

「ディスコみたいになっちゃったな」

「それか、ニューミュージックあたりか」

「言えてる」

AORとか、山下達郎とかその辺?」

オリジナルラブもだろ」

「だよな、今日のギター、まんまパクってた」

「笑かすなよな」

「マジで?......気付かんかった」

「おいおい」

「無自覚でパクるの一番ダメだろ」

「それは困るわ」

「ごめんごめん、次気付いたら教えて」

「おう」

「はいはい」

 

......飯が運ばれるまでこうやって話してると、今日のゲストをつい忘れそうになってしまう。

 

「ヨーコさん、音楽って難しいのよ」

「......あ、はい」

ヨーコは、もう水を飲み干していた。それが若干気の毒にも思えて。

......めんどくさいけど、俺が呼んだんだしなぁ。

「ヨーコさんは、やっぱり演劇部に入るの?」

「あ~、いや」

思い出すように、

「あの人たち、ノリがすごい内輪じゃなかったですか」

「だったねぇ」

「なんか、高校もあんな感じで」

「あ、高校も演劇なんだ?」とDs。

「はい、でも、大学だしな~とか」

「うん」

「なんか、ああいう子供っぽいノリ、苦手かもしれない......」

です、と小さく。

「そっか」

「でもさ」とBa。

「別に俺たちだって大人じゃないよ、な?」

「まぁな」

「あ」

「わりとどこのサークルでも一緒な気がするよ?」

「あ~......そうかもですね......」

居場所が悪いのか、おしぼりで何か折ろうとしている。

......Baが愚痴っぽくなっていると

「どこも、自制心のない酔っぱらいの集まりだよ」とDs。

「だな」

「お、カツ来たか」

「お~」

「うまそ~」

「わっ大盛りですね」

「食べれる?」

「あ、はい、大丈夫です」

 

 

俺たち貧乏学生諸君は、ビールととんかつでできているのだ。

金なし暇なし居場所なしの俺らは、この「吉兆」こそが......

そして、この子も、そうなるといいんだがなぁ。

 

 

「では乾杯」

 

 

『あの人たち、ノリがすごい内輪じゃなかったですか』

 

カツにかぶりついていると、なんとなく思い出して、

「まぁ、たしかに俺らだって内輪のバンドだけどさ」と、言い返してみる。

「あ......」

「おい困らすなよ」とBa。お前が言うのか。

「んでも、真面目にやってるつもりだよ」とDs。

「それはそうだよ」

「三人ともそのはず」

「他にすることねぇもんな」

Baの言い方がいちいち引っかかるのは、こいつが他所の音楽サークルと掛け持ちしているからだ。そんなに居場所がないんだろうか?

「大学生になってまで、時間や場所に縛られたくないよなぁ」

「その通り」とBa。

 

「かっこよかったです、今日」

「お」

ヨーコが話す。

「なんか、セッションっていうんですか?本当に何も決めずやるんですね」

うぐぅ

「グサッと来たな」

「え?あれ?」

「たしかに、最初は何かしら決めるべきなんだけどね......」

「やっぱテンポとか調ぐらい決めてよ」

「いや、うん、でもさ、めんどくさいんだよな......」

あ、そんなかんじなんだという顔を見せている。

「ま、うちのバンドはこんな感じで最初は10分くらい適当に音出すのよ」

「いや、でもほんと、すごくないですか?」

「いやいや」

「他のサークルでは、こんなことやってませんでしたよ」

「お、他所も行ったんだ」

「はい、一応......」

「ボーカル志望?」

「一応......」

 

彼女のおしぼりがどんどんアヒルをかたどっていく。

 

「あそことあそこかー」

Ds曰く、「最近はめっきりらしいね、昔は上手い人居たらしいけど」

「上手い人はさ」Ba曰く

「もう全員卒業したな」と。

「他所のネガキャンはやめようぜ」

“他所の”という言葉に反応してか、Baが「そうだな」とニヤニヤする。

「でも、他のサークルよりもレベル高いかもです」

「おーほんと?」

「あ、いや、音楽は分からないんですけどね」

「光栄だ」

「やったな」

「褒められたぞ」

「えっと」

えへへと卑屈っぽく笑う顔の奥に、俺はたしかに女優を見たんだがなぁ。

 

「ボーカルを探してるんですよ」と思い切ってつぶやくと、以外にその子は驚く素振りを見せない。

「私でいいんですか?」

「うん」

続けて、

「あの日のカラオケで、ほんと、心底惚れ込んだんだよ」

「君しかありえない」

「ぜひ俺らの前に立って歌ってほしい」

スラスラと、用意してもない口説き文句が出てきた。

全部俺が言った台詞だったけど、何故だか現実感がないような......まるで言わされてるかのような......妙な感じだった。耳が真っ赤になっていたことは、全部言ってしまってから気づいた。

 

「ちょっとだけ、考えさせてもらっても、いいですか?」

ヨーコの返答は意外だった。今たしかにつかんだと思ったんだが、逃してしまったようだった。

「ほかにも、見てみたいサークルがあって......」

 

 

アパート近くの飲み屋、ルーリードにて。反省会。

 

「完全にフラれてたな」

「ウケたわ」

「バカにすんなよぉ」

たしかに手ごたえを感じたんだがな......

「しかし、あの断り方ウケたよな」

「他所にもサークルはあるので......ってな」

「うんうん」

「彼氏いるので、みたいなこと断り方されたな~」

「ほんと、『私で、いいんですか......?』なんて言いかたしたくせに」

「いや~ほんと、ウケたウケた」

ナッツを齧る。

本気になって赤っ恥かいたな。

「でも予想外に剛の者かもしれんねあの子」

「んーでも、声がいいかは別の話だぞ」

Ba曰く「あの子の地声はあんまり好かない」そうだ。

たしかに、初めて話した時は、別の部屋から喋ってるのか疑ったような、歌とは別物の気の小さい声だったが。

 

「でも意外に肝は据わってたな」

「ん」

「あの子が上手かったら大歓迎だよ」

「なんで録音してこないの」

「いや、だからさ、聴き惚れて」

「あ~わかったわかった」

「カラオケだからいいけど、スタジオ入るときは頼むぞ」

「ネットが俺らの生命線だから」

「うん、ネットの切れ目が縁の切れ目」

「わかった、わかったよ」

「じゃあそろそろ出る」

「うん」

「俺も、明日一限からだった」

「だったな」

「報告楽しみにしてるわ」

「うす」

「楽しみだな」

「ハズレじゃなきゃいいけどな~」

「あ、今日は俺出すよ」

「ん、頼むな」

「あ、それから」と、思い出したように

「キーボーディストの捜索もよろしく」と伝えておいた。

「オッケー」「ゲットだぜ!」

二千円ほどの出費。そのあとは、マスターの吉識さんと軽くしゃべって、帰った。

 

角部屋まで一直線。暗い玄関から居間まで無機質に冷たい。

エアコンをつけて部屋中溶かしてやらなきゃいけないな。

ふとスマホを見る。

 

......勝った、と思った。

LINEであの子が、歌い手としてのYoutubeアカウントを教えてくれたのだ。

これはもう、脈ありとしか......!

 

身体の芯から熱くなって、その夜は明けるまで眠れなかった。

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groovin moment.2

今朝がた、うちのオノヨーコがスタジオ入りした。

彼女は生音のことはなんにも知らないようで、ただあっけにとられているようだった。

「今日は、とりあえず見ててほしい」

 

「よし、じゃいつもの」と言い、セッションが始まる。

 

Ds君、今日は16ビートの気分か。Ba君もそれに合わせ、スタッカートを聞かせている。

そっちがその気なら......

アンプに向かう。今日は歪みはなしだ。こないだYouTubeで見たコードソロでやってみよう。

慎重に......ジャストはよくても、はしることは許さない。たっぷりレイドバックしてやろう。ゆったり、ゆったりと、音の一つ一つが海に漂うみたいに......見上げなくたって、みんなニヤついているのが伝わってくる。

 

俺が首を鶏のように動かすと、グルーブはより強く燃え盛る。

適当に空間系を踏むと、ギターの音が遠く知らない国からの風になびいて......

最高に気持ちがいい......

 

頃合いだろう。手を挙げる。残り16小節で着地だ。

......シャッフルで決めたい!

ちょうど、まさにその、ドラムの16ビートに沿って、思いっきりはねてやろう。

 

 

......どうだ。

伝わってる?

顔を見上げる。

みんな不可解な表情をしている......駄目か―......

 

 

今日のセッションは不時着だった。みんなして笑っちまったな。

しかし、何が駄目だったろう?小節数?ハネが足らなかったのか?それとも、俺らにはもっと時間が必要なのか…...

 

「居たんだ?」というBa君の悪戯な声。

 

あ、居たんだ。

そうだった。

 

「オノヨーコさん、いかがです?」

「エッ!あーはい......ウーン......」

(-ω-;)

AAのような顔をしているヨーコ。いや、今日突然呼び出しておいて感想も何もないだろう。

「難しいんですね......音楽って」

「ん、おお」

よし、やっぱりこの女逸材だ、と思った。

 

「なかなか良い感じなんで、次は譜面合わせましょう」

こないだの夜、眠れなくなって書き上げた新曲だ。曲名はズバリ明けない夜を示している。ボーカル入りの、このバンド初めての楽曲である。

 

「オケ聞いたけど、えらく小奇麗だったね」とBa君。

「んーベースは今回あまり目立たない方針で」

「了解」

「......ごめんちゃんと聴いてなかった。どんな感じだっけ?」とDs君。

「えっ」

「いや、ごめんごめん」

......バイト明けのどす黒いクマに免じて。

「じゃ~、今日は、大サビ前の間奏を抜きにしてやろう。そこはポリリズムが入るんで」

「え~っと、どこだ」

「譜面だとCセクション」

「あ、了解です」

 

ボーカル入りになることは秘密にする。これをふたりとも覚えてくれててよかった。......しかし、どう切り出そう?

 

オケ通り、割とスムーズに演奏はできた。しかしBa君は歯がゆいようである。いっそソロでも渡してやろうか?

「な、間奏もやらない?」とDs。

「ん、ですね」

実際ポリリズムといっても、Dsは4つ打ちで合わせるだけなのでできるだろう。

「よし、じゃあギターからイントロ入りまーす」

 

......今日はなかなか良い具合だった。セッションのことは抜きにしても。楽譜の読み合わせは普段じゃこんなにスムーズには進まないのに。

 

「よし、じゃあそろそろ2時間。この辺で切り上げましょう。お疲れ様でした。」

ギターバッグに色々適当に詰め込む。楽譜だのチューナーだのエフェクターだのなんだの......全部機械だ俺はこいつらに愛着を持ったことがない。ギターだって中古の中華ギターだ。でもそれなりに使える。とにかく、歌うのは楽器ではいけない。人の声がなにより一番なんだから。

 

「ヨーコさんこの後大丈夫?」

「!はい、えっと......」

ヨーコはスマホを見ている。新しい時間割と格闘しているようだった。そういえば、新入生だったなこいつ。

「大丈夫です!で、どこですか?」

「すぐそばの、吉兆ってとんかつ屋でどう?」

「いいね!」とハイハットが鳴った。

合わせてベースもスラップする。早くしまえ。

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groovin moment.1

「地元どこ?え、北海道!遠いねぇ!」

 

街はずれの路地、当たり障りのない会話が続いている。

 

「北海道のどこ?札幌か!わかるわかる!俺も一回行ったことあったな」

「あ、ほんとですか?」

円山動物園でさ、あそこは広いねぇ」

「土地の広さぐらいしか、取り柄ありませんからね」

 

延々と続く道と、惰性の会話に、正直もううんざりしていた。

学校からカラオケまで、こんなに遠かったかなぁ?

 

「あー、あと、大きい商店街もあったような」

狸小路ですね。ラーメン食べました?」

「うん、けど味噌ラーメンて、正直どこも同じじゃない?」

「あ~、わかりますねそれ」

 

地元を好いてる奴ほど愚痴はよく垂れ流すもんだな。どこも一緒だと思う。

さて、このパーマの青年は俺の目に適う逸材か否か......

 

「はい!じゃあ新入生はぐれてないかな?部屋17番なんで、入れる人からどんどん入っちゃって~」

 

俺も、一応新入生という体で入らせてもらおう。正直ばれたらやっかまれるなんてもんじゃないけど......

年長さんから順に、デンモクが流されてくる。俺はこういう時は決まって尾崎豊槇原敬之しか入れないんだ。

 

ビジュアル系だの、ロキノンバンドだの、キャラソンだのが容赦なくぶち込まれる。読む空気など無いようである。

「......酷いな」

という愚痴は、おそらく青年諸君の怒号にかき消されているだろう。JAM PROJECTは、まあたしかに盛り上がるだろうが......でもそれを既知とするのは、どうなんだ?

 

ションベンに行く。甘い酒ばっか並んでるあの部屋に、もう用なんかないよな。お望みのものも手に入らんかったし......時間の無駄だったか。

 

或いは、と思ったんだけどな。

 

荷物を取りに行くと、そこに女優がいた。この小さな箱の中で唯一立ち、深呼吸するように、甘さと、艶めかしさと、冷やかさと、優しさと、嘲りと......あらゆる表情を映している女がいた。ようやく見つけた。俺はその子と少し話し、LINEを交換して帰った。

 

原石だ、原石だ、原石だ。この機は逃さない。あの子をこの街のシンボルにしよう。春先の夜風が軽く俺を急かす。

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