猫奴隷

夢の実像化を試みる。

 

もとは雑貨屋の倉庫だったのだろうか。有象無象の転がる廃墟を、私は散策している。

 

特別いいものも拾えやしない。内側がズタズタになってしまっていた外套以外は、なにも使えそうなものはなかった。

 

と、不意に目の端をちらつく影が。振り向くと、よく肥えた、なぜか狸の信楽焼のような恰好をした黒猫、瞳孔をかっぴらいてこちらを見ている。

 

置きものだろうか?悪趣味だな...?

 

そう思い近づくと、その猫は生きていたようで、二足歩行でどこかへ逃げ去ってしまった。何故前足を使わないのだ...?私は、追いかけることができなかった。

 

......再び散策を続ける。埃っぽい中に、何か、大切な何かが見つかる気がして。

 

そうして荒らし回っていると、例の猫狸と相見える。そいつは何故かなみなみと水の注がれたフィンガーボウルを小脇に抱えていた。手は震えていて、ボウルから水がバシャバシャこぼれている。よく見るとその手は、まるで小人のような...そうだアライグマだ!以前動物園で見た、気味の悪い悪魔のような手。

と、その猫狸熊は、すっとボウルを差し出す。私は、困惑しながら、会釈して手を洗おうとする。すると、そいつはまた逃げ出す。

 

二度は逃がさんぞ、けだものめ!

 

そいつが逃げ込んだのは、トイレの個室だった。そこから調子の外れた浪曲が流れてくる。隙間から覗くと、狸猫熊は和式トイレにフィンガーボウルをぶちまけ、手を洗っている。震えた声でそいつは唄っていた。

「手ぇを洗ぅためにぃ」

「生まれてきたからぁ」

「手ぇを洗うためにぃ」

 

......。

私は、呆然としていた。まるで自分が手を洗わされた感覚に陥った。何も分からん…が、なんとなく、こいつが呪われている、ということだけは分かった。

こいつはきっと重大な罪を犯したんだろう。それが何かは、私にはわからないが。私に隷属する、元は黒猫、泥棒猫か......?

いやしかし、彼は私をお客様として歓迎するらしい。手を洗うのだけはこなれているようで、それが私にはますます辛いことに思えた。

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