groovin moment.2

今朝がた、うちのオノヨーコがスタジオ入りした。

彼女は生音のことはなんにも知らないようで、ただあっけにとられているようだった。

「今日は、とりあえず見ててほしい」

 

「よし、じゃいつもの」と言い、セッションが始まる。

 

Ds君、今日は16ビートの気分か。Ba君もそれに合わせ、スタッカートを聞かせている。

そっちがその気なら......

アンプに向かう。今日は歪みはなしだ。こないだYouTubeで見たコードソロでやってみよう。

慎重に......ジャストはよくても、はしることは許さない。たっぷりレイドバックしてやろう。ゆったり、ゆったりと、音の一つ一つが海に漂うみたいに......見上げなくたって、みんなニヤついているのが伝わってくる。

 

俺が首を鶏のように動かすと、グルーブはより強く燃え盛る。

適当に空間系を踏むと、ギターの音が遠く知らない国からの風になびいて......

最高に気持ちがいい......

 

頃合いだろう。手を挙げる。残り16小節で着地だ。

......シャッフルで決めたい!

ちょうど、まさにその、ドラムの16ビートに沿って、思いっきりはねてやろう。

 

 

......どうだ。

伝わってる?

顔を見上げる。

みんな不可解な表情をしている......駄目か―......

 

 

今日のセッションは不時着だった。みんなして笑っちまったな。

しかし、何が駄目だったろう?小節数?ハネが足らなかったのか?それとも、俺らにはもっと時間が必要なのか…...

 

「居たんだ?」というBa君の悪戯な声。

 

あ、居たんだ。

そうだった。

 

「オノヨーコさん、いかがです?」

「エッ!あーはい......ウーン......」

(-ω-;)

AAのような顔をしているヨーコ。いや、今日突然呼び出しておいて感想も何もないだろう。

「難しいんですね......音楽って」

「ん、おお」

よし、やっぱりこの女逸材だ、と思った。

 

「なかなか良い感じなんで、次は譜面合わせましょう」

こないだの夜、眠れなくなって書き上げた新曲だ。曲名はズバリ明けない夜を示している。ボーカル入りの、このバンド初めての楽曲である。

 

「オケ聞いたけど、えらく小奇麗だったね」とBa君。

「んーベースは今回あまり目立たない方針で」

「了解」

「......ごめんちゃんと聴いてなかった。どんな感じだっけ?」とDs君。

「えっ」

「いや、ごめんごめん」

......バイト明けのどす黒いクマに免じて。

「じゃ~、今日は、大サビ前の間奏を抜きにしてやろう。そこはポリリズムが入るんで」

「え~っと、どこだ」

「譜面だとCセクション」

「あ、了解です」

 

ボーカル入りになることは秘密にする。これをふたりとも覚えてくれててよかった。......しかし、どう切り出そう?

 

オケ通り、割とスムーズに演奏はできた。しかしBa君は歯がゆいようである。いっそソロでも渡してやろうか?

「な、間奏もやらない?」とDs。

「ん、ですね」

実際ポリリズムといっても、Dsは4つ打ちで合わせるだけなのでできるだろう。

「よし、じゃあギターからイントロ入りまーす」

 

......今日はなかなか良い具合だった。セッションのことは抜きにしても。楽譜の読み合わせは普段じゃこんなにスムーズには進まないのに。

 

「よし、じゃあそろそろ2時間。この辺で切り上げましょう。お疲れ様でした。」

ギターバッグに色々適当に詰め込む。楽譜だのチューナーだのエフェクターだのなんだの......全部機械だ俺はこいつらに愛着を持ったことがない。ギターだって中古の中華ギターだ。でもそれなりに使える。とにかく、歌うのは楽器ではいけない。人の声がなにより一番なんだから。

 

「ヨーコさんこの後大丈夫?」

「!はい、えっと......」

ヨーコはスマホを見ている。新しい時間割と格闘しているようだった。そういえば、新入生だったなこいつ。

「大丈夫です!で、どこですか?」

「すぐそばの、吉兆ってとんかつ屋でどう?」

「いいね!」とハイハットが鳴った。

合わせてベースもスラップする。早くしまえ。

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