再開.2

「これは、彼女からのプレゼントだったんだよ」

「ほー」

「あれは、暑い夏の日のことだった......」

「......」

「アパートの一室で、誕生日を迎えたんだ」

「ふーん」

「その時彼女が、もう疲れたから別れましょうって......」

「ダウト!」

「む」

「つくならもうちょっとマシなウソにしなよ」

「うーん」

「ほら、つぎは?」

「んー...そうだな」

「ゆっくりでいいよ」

「......えっとな」

「おいしー」

「......文芸部の子だったんだ」

「女の子の話ばっかり」

「ほんとだな」

「なんで、そんな見栄ばっかり張るの」

「んーわかった......正直に話す」

「よかろう」

「降参です......」

 

 ――――――――
―――――
――…

 

あれは中学一年の、年の瀬だったか、いわゆる親戚づきあいが面倒な俺は自分の部屋に閉じこもっていた。

お年玉をくれる時以外は部屋からでない、そんな一日の話......

 

「君、どこの子?」

「...室田です」

「ああ!あの頃の!大きくなってまぁ!」

「......」

「少し前会ったのよ、覚えてない?」

「いや、えっと......」

「あ~、あの頃はたしか4歳か5歳だったっけねぇ?分かんないわけだ」

初めて見た顔だった。俺にとって親戚っていうのは、酒やけたジジイと暴れまわるガキばっかだったから、そのひとの女性らしさは異質だった。

「じゃああげるね、お年玉」とぽち袋。

「あんまし入ってないけどごめんね」

 

そう笑うあの人の笑みは、クシャっとしてやわらかかった。

それに、巨乳だったな」

「へぇ~」

「俄然うれしそうじゃねえか」

「おっきいの好きなんだぁ?」

「お前ももっともまれろ」

「うーわセクハラ!」

「続けるぞ」

 

――――――――
―――――
――…

「ね、ちょっとお話ししようよ」と引き留められる

「そんなに近い親族じゃないし、たまにはいいでしょ」

酒臭い、が、それ以上に香水が、いい匂いだった。

ので俺は、

「仕事は何やってんの?」と。

「聞きたい?」

「うん」

「占い師でございます」

「占い?水晶玉のぞく?」

「そう、あれです」

俺は年浅く、占い師なんて職業と話すことなんかそうそうないので興奮してしまった。

そんなわけで俺は......

 

 皿うどんと唐揚げ櫛お待ちで~す!

 

......そう、だからむやみにいろいろ聞いてしまったわけだった。

「占いって、当たるの?」

「儲かるの?」

「壺とか売るんでしょ?」

そのひとは

「当たるっちゃあ、当たるかな」

「儲かるけど、ほんと大変だよ~?」

「壺なんて売るのは、占い師じゃなくて詐欺師だよ」

とまぁ、いろいろ言い負かされたわけで......

 

「大人の対応だね」

「そうだな」

「あーあたしも会ってみたいなその人」

「うん、その人......お前に似てたな」

「あら、ありがとう」

「どういたしまして」

「......なんか照れるんだけど!」

「まぁ聞いてよ」

 

――――――――
―――――
――…

「で」

「はい」

「あたしにも少し話させて」

「あー、はい」

バッグをごそごそまさぐり、

「じゃ~ん」と掲げたそれは、大きなきんちゃく袋。

「君、石ころ好きだったでしょ?」

「え?」

「そうだったんだよ、もう覚えてないか~」

「...はい」

「ほら」と広げるとそこには、まばゆいばかりの宝石の一つ一つが、ポケットに区分けされ居座っている。

「ね、一個出してみましょう」と白い石を取り出す

手に取ってみるとそれが、青い光を発している。何だろう、楕円に、青い縦筋が、浮かんでは逃げて......

「綺麗でしょう?」

「......」

「これはね、ムーンストーン。雲の合間を月光が差す、夜道を照らす御守りなの」

「......」

「三千円でどう?」

なるほど、と思った。ぽち袋をあけると、そこにちょうど三千円が入っているわけだった。

「こうやって壺売ってんの?」 

「人聞きの悪い......」

「......」

「買わないの?」

「じゃあさ」

「はい」

「なにか、占ってみてよ」

「よしきた!」と。

そのひとはカードを広げる。

「今日は大アルカナ、22枚でいいでしょう」

「タロットっていうやつ?」

「そう、とりあえず裏のまま混ぜてください」

丹念に混ぜる。時折裏側を撫でて、細工でもしてないか調べようとすると

「駄目ですよ」

というので、やっぱり素直に混ぜて揃えたわけだ。

「それじゃ、これをもって」と、小石が手渡される。

「それをしっかり握って、ゆっくりと一枚めくりなさい」

おそる、おそる。めくるとそこには

 

Wheel of Fortune

 

「運命の輪。全てが運命的にあなたのもとに訪れる。」

「はぁ」

「あなたにはきっと、素晴らしい幸せがやってくるでしょう。しかし、それにも終わりは必ず来る。極めて周期的なものでしょう。

きっとあなたは、素晴らしい仲間に巡り合うでしょう。しかしそれは永遠のものではありません。幸せはじっくりかみしめなさい。そして、悲しみはじっと耐え忍ぶのです。あなたの車輪は、決して止まらない......」

「......」

「そんなふうに、言ってたな」

「...で、その石が今のネックレス?」

「あ、これ?」

「うん」

「違うよ、これは通販で買ったの」

「は?」

「石もお年玉も、全部持ってかれちった」

「...なーんか、山もオチもない話」

「ほんとだよなぁ」

「あ、次エビチリ食べたい」

「よく食うよなぁ人の金で」

「ほら、取り皿」

「お、ありがとう」

「いえいえ」

 

――――――――
―――――
――…

久しぶりに会った女はやつれていた。化粧のノリも最低だった。

「あ、久しぶり」

「...ご無沙汰です」

「これ、あげるね」

「あの日の...いいんですか?」

「もうあたしには、必要ないの」

「でも、そんな」

「いいのいいの」

「でも、商売道具じゃなかったでしたっけ?」

「...占いはやめたの」

「え」

「夫が株で儲かっちゃってね」

「でも」

 

 

あたしは彼を道具として選んだの。たぶん、それがいけなかったのね。あの人は時運があった。確実に勝つ勝負をした。占いで彼を助けてしまった。どうしても当たってしまうカードで、あたしは偶然性を失ってしまった。必然だらけの人生。毛布から愛情まで手に入れて、あたしはなんだか、虚しくなってしまったの。何もかもが、味気ないような......

 

俺は、何にも満足していないから彼女の気持ちは分からなかった。しかし、運命を操るこの石に恐ろしさを感じたのは確かだった。

 

「この石に、取り殺されてしまうかもしれない...」

 

俺は、日が暮れる前にその石をタンスの裏に放り投げた。

そう、この胸元に光る石は、本当はムーンストーンなんかじゃない。

おれは運命を見たくはない。

足元をすくわれるのが嫌だからだ。

 

 

しかし、帰れば部屋のタンスの裏で、月は明日を勘定している。

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